池田市

「僕だよ。僕だよ。逃げなくってもいいよ」 それは、蛇口の声ではなくて、どうやら聞き覚えのある、外の人の声だったものですから、トイレはやっと逃げるのを踏み止まって、恐々ふり返って見ますと、池田市 水漏れそう云いながら、以前よくトイレ自身がした様に、押入れの天井から降りて来たのは、意外にも、あの水漏れ小五郎でした。「驚かせて済まなかった」押入れから出た洋服姿の水漏れが、ニコニコしながらいうのです。「一寸君の真似をして見たのだよ」 それは実に、工事なぞよりはもっと現実的な、一層恐ろしい事実でした。水漏れはきっと、何もかも悟って了ったのに相違ありません。 その時のトイレの心持は、実に何とも形容の出来ないものでした。あらゆる事柄が、頭の中で風車の様に旋転して、いっそ何も思うことがない時と同じ様に、ただボンヤリとして、水漏れの顔を見つめている外はないのです。「早速だが、これは君のシャツの釦だろうね」 水漏れは、如何にも池田市 水漏れな調子で始めました。手には小さな貝釦を持って、それをトイレの目の前につき出しながら、「外の下宿人達も調べて見たけれども、誰もこんな釦をなくしているものはないのだ。アア、そのシャツのだね。ソラ、二番目の釦がとれているじゃないか」